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テクニック - Technique - 作品づくり (見せ方 (1) - 作品を考える、舞台での動き) < back - next>


■ まずは作品を考える

マイムでの表現力が増してくると、作品をどのように作っていくかという問題になってきます。言うなれば単語の数が増えて、これを文章にするにはどうすればいいかというところに来たわけです。

しかし、作品づくりの本当にコアな部分 −自分が何を表現したいのか− については、ここでは何もお手伝いできません。自分が何に興味を持っているか、どんな世界を表現したいのかにかかってきます。

もっとも、最初のうちは練習と言うことで、自分のできるテクニックを組み合わせて、小さいストーリーを作って演じてみるのがよいでしょう。たとえば、

「マイム・ウォークで歩いていると、不意に目の前に壁が現れる。あたりを見回すといつの間にか自分は壁に囲まれている。出口はないのか? よく見ると、はしごがあった。脱出できるのは、ここしかないようだ。高いところはこわいけど、やむをえず、はしごを上っていく。ずんずんずんずん上っていく。ふと下を見ると、ずいぶん高いところまで上っていた。目がくらむ。落ちる・・・・・落ちた、と思ったところで目が覚める」

・・・たわいないというか、いかにも「マイム・ウォーク」と「壁」と「はしご」の練習という感じのストーリーですね。しかし、最初のうちはこういったところから始めて、慣れてくると多少凝ったものを考えるようになっていきます。

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ストーリーの作り方などは、ここで扱う範疇ではなく、みなさんそれぞれに試行錯誤してもらわなければなりません。凝ったストーリーを見せたいのか、あるいはさらっと軽いコメディにしたいのか、とにかくうけを狙ってとばしていくもよし、しっぽりと洒落た感じにするもよし。あるいは、ストーリーなんかぶちこわして、とにかくインパクトだけで押していく、シュールに走る、抽象で頑張るというのもありです。

僕は、わりとストーリーをかっちり作ってしまう方なのですが、案外即興のレッスンなどで、ふと浮かんだものをふくらませる方が面白いものができたりもします。また、ストーリーとしてはパッとしなくても、登場人物のキャラクターの魅力で押していくなど、表現方法を変えることで作品が生きてくることも多くあります。

ただ、せっかく作品を思いついても、マイムではどのような見せ方が使えるのか知っていないと、なかなか効果的に作品を組み立てていけないのもまた事実です。

そこで、このページ以降では、マイムでのキャラクターの切り替え方や舞台の使い方など、マイムを見せるための工夫について説明します。


■ キャラクターの切り替え

作品のストーリーによっては、登場人物を2人以上出してくる必要が生じます。ところが、マイムは基本的に1人で演じます。そこで、1人2役のようなことを擬似的に行って、2人以上の人物を表現します。

と言っても、別段特殊なことをするわけではありません。一人芝居や落語でよくやる手法で、顔や身体の向きに上下(かみしも)をつけたり、立ち位置をすばやく入れ替えたりすることで、複数の異なる人物を表現します。


右の図では、身体の位置を少し移動しています。移動の距離は、作品の内容に応じて決まります。内容上、特に問題がない場合は、演じやすくキャラクターの見分けがつきやすい幅にすればよいでしょう。

キャラクターの切り替え方としては、一番無理のない方法と思われます。

キャラクターを切り替える(立ち位置を変える)瞬間に、ほんの一瞬、動きを止めるとメリハリが出て分かりやすくなるかもしれません。このあたりのタイミングや感覚は、練習で試行錯誤したり、人の意見を聞いたりして培ってください。

そして、何より大事なのは、気持ちの切り替えです。
気持ちをうまく切り替えられないと、当然ながら演技や動きがまずくなります。もちろん、見ている側にとってもわかりにくくなります。

(右の画像をクリックすると、アニメーションが表示されます)

立ち位置を変えて、キャラクターを演じ分ける
立ち位置を変えて、キャラクターを演じ分け。



もちろん、別に身体の位置を動かさなくても、顔と身体の向きを少しひねるだけでもキャラクターの切り替えはできます。落語では実際そうやっていますね。

ただ、お客さんにとってわかりやすいかどうかを常に考えるようにしてください。落語と違って声は使えないため、中途半端に上下(かみしも)をつけただけでは、顔や身体が見えにくくなるだけで、何をしているのかわからなくなってしまうことがあります。逆に、キャラクターの演じ分けがうまくなってくると、この方法でも充分わかりやすくできます。

また、キャラクターを素速く切り替えたい場合や、舞台が狭い場合などは、この方法が有効です。作品を演じていてテンポが悪い場合は、このようなキャラクターの切り替え方を検討してもよいでしょう。

これらの制約がない場合や、まだキャラクターの演じ分けに慣れていない場合は、少し立ち位置をずらしてキャラクターが変わったことを表現する方がよいかもしれません。

(右の画像をクリックすると、アニメーションが表示されます)


立ち位置を変えず、上下(かみしも)だけでキャラクターを変更。
この方法のよいお手本は、落語です。

パントマイムでは、落語ほど場所の制約がないため、あえてこのようなキャラクターの切り替えを行う必要はありません。ただし、テンポをよくしたり、狭い舞台で演じる場合などでは効果的です。

アニメーションでは足の位置が固定されていますが、足の位置を多少ずらして、もう少し身体の向きを替えた方が分かりやすくなります。



ややスタイリッシュになりますが、回転してキャラクターを切り替えるという手法もあります。

ただし、これは切り替えにかかる時間が長いことや、見た目の感じが派手なので、スタイリッシュな雰囲気や特殊な演出効果を狙うのでない限り、キャラクターを切り替えるだけなら使わない方がよいでしょう。

回転する見せ方はむしろ、後述する「場面の転換」に使うほうが効果的です。

(右の画像をクリックすると、アニメーションが表示されます)


身体を回転させて、キャラクターが替わったことを表現。

パントマイムを見慣れていない人だと、「何じゃこりゃ」と思ってしまうかもしれません。スタイリッシュな感じを出したい場合は、この方法もありですが・・。


また、演じ分けるキャラクターは、それぞれ見た感じや性格の違いがはっきり分かる方が、見ていてわかりやすくなります。上のアニメーションでは、老人と若者(?)と、対比がはっきりしているため、それだけわかりやすいわけです。

もっとも、キャラクターは作品の内容と密接に関係するため、いつでも思うようにキャラクターを設定できるというわけではありません。しかし、登場人物から先に作品を作っていくような場合は、登場人物それぞれの性格や特徴がはっきり区別が付くように作っていくのも手です。

(※ 余談ですが、僕の周辺では登場人物を切り替える手法を「キャラクターチェンジ」とか「キャラチェン」とか呼んでます。でもこれはきっと和製英語。英語ではTransformationがこの概念にあたるはずです)



■ 場面の転換

マイムでは舞台装置を使わないため、いまいる場所をどんなところに想定することもできます。

それだけではなく、舞台装置を使わないため、場面を瞬時にして切り替えることも可能になるわけです。たとえば、灼熱の砂漠から吹雪の南極大陸へ一瞬にして移動するということが、それほど不自然さもなく(少なくとも、セットを立て込んだ舞台でやるよりは無理なく)表現できてしまいます。

この場面の転換を表現するのに、身体を回転させて、「場面が変わったよ」ということを表すことがあります。

−アニメーション画像(作成予定)−

これは、映画の手法で言えば、ワイプ効果による画面切り替えなどと近いかもしれません。回想シーンなど、ある場面と別の場面が際だって異なることを表すのに効果的です。

ただ、そのような効果が不要な場合は、素直に立ち位置を変えるなどして、違う場面であることを表現します。

−アニメーション画像(作成予定)−

上で少し映画の手法についてふれましたが、このように場面の転換が瞬時に行えることから、映画のカットワークに似た手法で場面場面を積み重ねていく演出効果をとることもできます (ただ、うまくやらないと見ててわかりにくいです)。

−アニメーション画像(これは作る暇ができればいれます)−

さらに、場面転換の際に、このようなカットワークの手法をとらず、ある場面からある場面へと移動している過程(歩く、走るなど)を表現することもできます。映画で言うとレールを使った移動撮影にあたりますね。この辺の詳細は、移動のテクニックに関する「マイム・ウォーク - - 移動について」のページを参照してください。

この移動のテクニックを使った場面転換の応用として、時間の経過を徐々に表現するという手法があります。
有名なところでは、マルセル・マルソーの「青年・壮年・老年・死」という作品があります。マイム・ウォークで歩きながら、人間の一生を表現した作品です。これは1本の作品として成立してしまっているのですが、たとえば、

ある事件現場。壮年の刑事は現場に残された写真を見て、回想に入る。
青年が写真に写っている女性を捜している。歩き回りながら徐々に齢を重ね壮年の域に。事件現場の情景に戻る。

・・・テキトーにひりだしたダサダサの内容なので、つっこまないでほしいですが、作品の途中にこんな風なつなぎを入れることもできるわけですね。


■ 舞台の使い方

芝居の世界ではたまに「客席に尻を向けるな」などと言われ、怒られたりします。作品の性格や演出上やむを得ない場合はもちろんありますが、これはある面でやはり真実を突いています。
つまり、お客さんにできるだけ顔を見せた方が、伝わるものが大きくなるのです。マイムのように言葉を使わない世界では、顔の情報量というのはよりいっそう重要になります。

そこで注意したいのが、モノの配置です。
マイムではセットはもちろん使わないのですが、セットがあるかのようにふるまうこともしばしばあります。

たとえば台所で料理をするマイムをするとしましょう。
通常の芝居では、キッチンのセットを舞台の後方か横手に配置することになると思います (下図参照)。

−図が入る予定−

しかし、マイムではそのような制約を気にする必要はありません。このような場合は、台所を舞台前方にどんとおいて、顔や動きが一番よく見えるようにします。

−図が入る予定−

芝居のセットの感覚でモノの配置を考えると、文字通り「顔の見えにくい」作品になってしまうことがあります。注意しましょう。


動きの方向なども、工夫できます。
舞台上ではつい、客席に対して水平(横)に動くか前後(縦)に動くかに終始してしまいがちですが、斜めの方向を使うことで、動きに立体感や変化が出せたりすることもあります。マイムでは、セットのない分動きの方向にも制限が少なくなります。効果的な位置や動き方がないか一度検討してみるのをお勧めします。


キャラクターや場面を切り替えるときの立ち位置などにも工夫の余地があります。
場面Aは中央で演じ、場面Bでは上手の客席よりで演じることで場面が異なることをはっきり分かるようにするとか、そういうことです。

また、次のページで説明する特殊効果に「次元切り (split screen)」という手法がありますが、これも舞台を効果的に使った例です。



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