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テクニック - Technique - テクニックと身体の使い方 (マイム・ウォーク - - 移動) < back - next>


パントマイムの大きな特徴の一つは、道具を使わないことです。小道具はときどき必要に応じて使いますが、大道具はまあたいていの場合、使いません。

不便な点もありますが、大道具を使わないことには、大きなメリットがあります。
まず当然ですが、建て込みの手間がいりません。基本的に、自分の身体一つでどこでもできるわけで、この辺が大道とフィットするゆえんですね。
そして、表現力さえ伴えば、パフォーマーが演技している場所を、世界のどんな場所にでも設定できます。その気になれば、街のど真ん中でも、ジャングルの中でも、北極点でも、銀河系宇宙の果てであろうと自由自在です(もちろんそれ相応の表現力は必要です)。
この場所の融通が利くのを利用して、瞬時にして場面転換をすることもできます。朝、家を出る場面を見せて、次の瞬間に会社の場面に切り換えるといった具合。

そして、もう一つ。大道具によって場所が固定されないため、パフォーマーはその場にいながらにして、別の場所へと移動できるのです。

・・・と書いては見たものの、これでは禅問答ですね。

コントや落語で歩いているのを表現するのに、よく「その場歩き」をしますが、要するに原理はあれと同じです。
うまい噺家の歩いている仕草を見ていると、噺家のまわりに江戸の頃の建物が建ち並んでいて、噺家が歩くに連れて、建物が後ろへ流れていくようなイメージが浮かびます。
パントマイムでも、歩いている動作によって、空間が後ろに流れていくような効果を作り出します。 つまり、まわりの(イメージ上の)空間を移動させることによって、身体はその場を離れていないのに移動しているように見えるわけです。このことをパントマイムでは空間移動とか単に移動とか呼んでいます。

・・・どうも、話が理屈っぽくなってしまいました。能書きはこれくらいにして、実践に移りましょう。


プレッシャー・ウォーク

「その場歩き」でもいいのですが、パントマイムでは歩くとき、もう少しリアルに移動しているさまを見せます。
歩き方には大きく2種類あるのですが、その内のプレッシャー・ウォークは比較的覚えやすく、応用もしやすい歩き方です。

プレッシャー・ウォークは、お客さんに対して正面を向いている場合に使うのが基本です。しかし、お客さんに対して横向きでも、まずまず歩いているように見えます。横向きのときは、後述するプロファイル・ウォークの方が、フォルムとしてはきれいです。しかし、ほかの動作と連携しにくい歩き方なので、状況に応じて横向きの場合にもプレッシャー・ウォークを使うとよいでしょう。

では、実践に入りましょう。まず最初にすることは・・・もう見当がついているかもしれませんが、イメージです。
今、自分がどんなところにいるか、自分はどこに向かって歩こうとしているのか、イメージしてください。
プレッシャー・ウォーク(スタートの状態) - pressure walk(beginning) イメージができたら、正面を向いて、脚を軽く開いて立ちます。
そして、片方の脚を前に出し、かかとを上げます。かかとの上がった分、膝が曲がります。
これが、プレッシャー・ウォークのスタートの状態です。

脚の動かし方は、脚の部分をもう少し拡大した図で説明しましょう。
プレッシャー・ウォーク(1) - pressure walk(1)
スタートの状態です。
この状態から、前に出した足のかかとを、ゆっくりと下に踏み下ろします。
それと同じリズムで、反対側の脚を後ろ(少し斜め後ろ)の方に引きます。
このとき、腰が上下に動かないようにしてください。実際に歩いているときも、腰の高さはあまり上下しません。プレッシャー・ウォークでも腰の高さを変えないように注意します。
プレッシャー・ウォーク(2) - pressure walk(2)
かかとを踏み下ろし、反対の脚を後ろに引いた状態です。
これで一歩脚を踏み出した状態です。
後ろにある脚を前に運び、次の一歩を踏み出します。
プレッシャー・ウォーク(3) - pressure walk(3)
後ろの脚を前に持ってきた状態です。
スタートの状態が、左右逆になった状態ですね。
同じように、かかとを踏み下ろしながら、反対側の足を後ろに引きます。
プレッシャー・ウォーク(4) - pressure walk(4)
かかとを踏み下ろし、反対の脚を後ろに引ききった状態です。
後ろに引ききった脚を前に運ぶと、スタートの状態に戻ります。
後はこれの繰り返しです。

静止画では動きが分かりにくいので、アニメーションGIFを用意しました。
下の画像または説明文をクリックすると表示されます。
クリックするとアニメーションを表示 - click to view animation (pressure walk)
プレッシャー・ウォーク、全体を正面から(135KB)
クリックするとアニメーションを表示 - click to view animation (pressure walk - close up)
プレッシャー・ウォーク、脚を拡大して斜め前から(242KB)

プレッシャー・ウォークの注意点

アニメーションを見ると分かるように、腕の動きも重要です。
脚の動きに合わせて、軽く腕を振るようにしてください。 慣れないうちは、手と脚が同時に出たりしがちなので、気をつけて。

また、腕の動きや脚の引きは、少し横の方向に動かします。
これは、腕や脚を真後ろに動かすと、正面からは小さな動きに見えてしまうからです。

上のアニメーションでは、妙に腰や胴体がどっしりと落ち着いていますが、実際には胴体を多少左右に振ってやる方が、動きが大きく、なおかつ自然に見えます。

あとは練習あるのみです。最初はぎこちないですが、数をこなせばスムーズに歩けるようになります。

−−

・・・動きに慣れたら、さまざまなイメージで歩いてみましょう。
自分はいったいどういう人物なのか、自分が今いるのはどこなのか・・・。天気や道が悪いとき、自分がしんどいときや楽しいとき、そういういろんな状況を思い出して歩いてください。
歩きながら、まわりの風景やら何か落ちていないかとか見回したりもしてください。


プロファイル・ウォーク

2種類ある歩き方のもう一つは、プロファイル・ウォークです。

プレッシャー・ウォークが、原則として正面を向いているときに使うのに対し、プロファイル・ウォークはお客さんに対して横向きのときに使います。横向きにプレッシャー・ウォークをするよりも、フォルムとしてはきれいです。しかし、やや難しい動きであるのと、ほかの動作からこの歩き方へスムーズに移りにくいのとで、プレッシャー・ウォークほどには使いません。

ちなみに、ムーン・ウォークはこの歩き方がベースになっていますね。

では、実践です。まず最初は例によって、イメージを作りましょう。今、自分がどんなところにいるか、どこに向かって歩こうとしているのか・・・。
イメージができたら、横を向いて立ちます。身体は、できればやや前傾させてください。


プロファイル・ウォーク(1) - profile walk(1)
片方の脚をまっすぐ前に出します。足の裏は床と平行にして、どちらの脚も伸ばしたままです。
前に出した足は浮かせています。したがって、身体の重心は前に出していない方の脚に乗せます。
これが、プロファイル・ウォークのスタートの状態です。
プロファイル・ウォーク(2) - profile walk(2)
前に出した脚を後ろにまっすぐ引きます。
足の裏は床に平行のまま。ちょうど床をすべらせるような感覚です(ただ、足の裏は床につけないようにしてください)。

反対側の脚は、すべらせている脚に合わせて、かかとを持ち上げます。持ち上げたかかとの高さに合わせて膝を曲げます。
このとき、腰の高さを変えないように注意してください。実際に歩いているとき、腰の高さはあまり上下しません。プロファイル・ウォークでも腰の高さが上下しないようにします。
運動としてはちょっときつい目。
プロファイル・ウォーク(3) - profile walk(3)
脚を後ろに引ききった状態です。この状態で、足を床につけて重心をこの脚に移します。
反対側の足のかかとは、一番高く上がっている状態です。
重心が移ったら、この脚を前にのばします。
プロファイル・ウォーク(4) - profile walk(4)
さっきまでかかとを持ち上げていた脚を前に出した状態です。
スタートの状態が、左右逆になった状態ですね。
プロファイル・ウォーク(5) - profile walk(5)
前に出した方の脚を、後ろにまっすぐ引きます。
反対側の脚は、引いている脚に合わせて、かかとを持ち上げます。持ち上げたかかとの高さに合わせて膝を曲げます。
プロファイル・ウォーク(6) - profile walk(6)
脚を後ろに引ききり、かかとが上がりきった状態です。
かかとを持ち上げている脚を前に運ぶと、スタートの状態に戻ります。
後はこれの繰り返しです。

静止画では動きが分かりにくいので、アニメーションGIFを用意しました。
下の画像または説明文をクリックすると表示されます。
クリックするとアニメーションを表示 - click to view animation (profile walk)
プロファイル・ウォーク、全体を真横から(102KB)
クリックするとアニメーションを表示 - click to view animation (profile walk - close up)
プロファイル・ウォーク、脚を拡大して斜め前から(262KB)

プロファイル・ウォークの注意点

プレッシャー・ウォークでもそうでしたが、腕の動きも重要です。
脚の動きに合わせて、軽く腕を振るようにしてください。手と脚が同時に出たりしないよう、気をつけましょう。
特に、プロファイル・ウォークは、プレッシャー・ウォークよりも腕の動きがはっきり見えるので、プレッシャー・ウォーク以上に腕の使い方に気を配ることが必要です。

上のアニメーションでは、妙に腰や胴体がどっしりと落ち着いていますが、実際には重心の移動によって胴体が多少左右に振れます。

・・・あとは数をこなしていきましょう。プロファイル・ウォークは結構しんどいんで慣れないうちは大変ですが、なるだけスムーズに歩けるようにしましょう。


−−

プレッシャー・ウォークでもやったように、さまざまなイメージで歩いてみましょう。
自分はいったいどういう人物なのか、自分が今いるのはどこなのか・・・。天気や道が悪いとき、自分がしんどいときや楽しいとき、そういういろんな状況を思い出して歩いてください。
歩きながら、まわりの風景やら何か落ちていないかとか見回したりもしてください。


そのほかの移動を使ったテクニック

歩くテクニックがあれば、走るテクニックもあります。
走るときは、歩くのと全然違うテクニックになります(技術的にはこっちの方が習得するのは楽です、たぶん)。
まず、普通に「その場走り」をしてみましょう。それから、徐々に脚を後ろに蹴り上げます。脚の蹴り上げが強くなると、身体をまっすぐに立てていると不安定になります。身体を前方に傾けましょう。また、脚の蹴りの強さに合わせて、腕も強く振ります。
要するに、次のアニメーションGIFのようになります。

走る - run
走るさまを横から(11KB)
身体をかなり傾けます。脚の蹴り上げ、身体の傾け、腕の振りの3つでバランスをとります。
その場走りよりはだいぶ疾走感が出ます。体力的にも本当に走っている感じ。
走る - run
走るさまを正面から(16KB)
正面を向いて演じる場合は、もう少し腕を横方向に振ってみせるのがいいかもしれません。
正面から見ると、「その場走り」との差がはっきり出ますね。

階段や梯子のテクニックも、その場にいながら上下に「移動」しています。

また、「移動」のカテゴリに含めるのはどうかとも思いますが、自転車やエレベータ、エスカレータ、自動車などを出してくるのも、ある意味移動のテクニックですね。
特殊な身体の使い方は必要ありませんが、まわりの空間が移動しているというイメージが重要です。


かなり雑なアニメーションですが、梯子と階段のGIFアニメーションをおまけで入れておきます。
下の画像または説明文をクリックすると表示されます。
はしご - ladder
はしご、全体を正面から(117KB)
試作版。マネキンではうまく作れなかったんで、とりあえず骸骨で。それでも左手の処理がおかしい。画像の数をかなり端折ってます。
上に登っていくのをイメージしながら演じます。
階段 - stair
階段、横から(90KB)
試作版。足踏み、腕の処理がかなり雑・・・(手前の腕はあえて動かしていないのですが)。もうちょい身体を上向きに傾けて、上に登っていくというイメージでやります。





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