タイトル・ロゴ - Title Logo


About - - - コメディア・デラルテ
コメディア・デラルテ(Commedia dell'Arte)は、16世紀頃から18世紀頃までヨーロッパで道化芝居を演じていたイタリアの劇団(あるいは芝居そのもの)のことです。劇団と言っても、特定の劇団ではなく、道化芝居を演じる数多くの劇団全体を指します。Arteは英語のArtに相当する語句で、「技術、技」あるいは「職業」を意味します。職業的な役者からなる劇団として大きく成功を収めたのは、コメディア・デラルテが最初といわれています。

発祥はイタリアですが、パリを中心に、イギリス、北欧、モスクワにいたるまで活躍の場を広げ、現代ヨーロッパの文化に大きく影響を及ぼしています。
ことに演劇では、モリエールなど18世紀のフランス戯曲に、影響が色濃く反映されています。また16世紀となると、大御所シェイクスピアとも同時代なわけで、シェイクスピアがデラルテを見たという記録はありませんが、影響を受けていたと考えられます。コロンビーヌとかハーレキンのようなコメディア・デラルテのキャラクターはマザー・グースなんかでもよく出てきますね。

パントマイムもコメディア・デラルテに源流を発しています。
現在、われわれがサーカスなどで目にするクラウン(ピエロ)も、もともとコメディア・デラルテに登場するキャラクターから派生したものです。


コメディア・デラルテの特徴は:
  • 登場人物にいくつかのパターンがあり、だいたい固定している
  • 仮面を付けて演じられる
  • セリフを重視しない(身体を重視した演技)
  • 即興がふんだんに取り入れられていた
などがあります。
次に、これらの特徴について簡単に説明しましょう。

−−

典型的な登場人物

コメディア・デラルテで演じられた芝居には、何種類かのおきまりのキャラクターが登場します。芝居に応じて役柄は変わるのですが、見た目や性格はいつもだいたい同じです。狂言で言うと、太郎冠者・次郎冠者みたいなもんですね。
研究者の間では、このような登場人物を「ストック・キャラクター(stock character)」と呼んだりもします。

- - 代表的なストック・キャラクター - -

パンタローネ
老人のキャラクターです。鉤鼻で、とがったあご髭をはやしています。老人と言うことで、ある程度えらい人物を演じることが多いようです。性格は、気むずかし屋でしみったれ、権威をかさにかぶって偉そうにしてたら鼻をあかされたりします。老人ですが、よれよれというわけでもなく、だいたいは元気なよく動く年寄りです。
たとえとしてはちょっとまずいのだけど、マルクス兄弟のグルーチョのルックスをもっと老けさせて、チコの理屈っぽいしゃべりが加わったような感じでしょうか。

アルレッキーノ
コメディア・デラルテで一番有名なキャラクターです。イギリスやドイツではハーレキン、フランスではアルルカンと呼ばれます。
下僕なのですが、はしっこくて機転が効きます。しかしながら、その場しのぎの機転しか効かないため、しっぺ返しをくうことも。登場初期のころは、つぎはぎだらけの服を着ていました。しかし衣装はしだいに菱形のまだら模様の入ったタイツに変わり、今ではアルレッキーノのトレードマークになっています。また、剣のような棒を腰に差しています。
このキャラクターはよく動きます。アクロバティカルな動きもふんだんにあったようです。その一方、機転を効かせたセリフやギャグをばんばん吐きます。デラルテのキャラクターの仲でもっとも有名なのも無理はないでしょう。
マルクス兄弟で言えば、ハーポの動きにグルーチョのしゃべりを足したような感じでしょうか。

ドットーレ
パンタローネと似て、ある程度えらいさんの役が多いです。見た目はパンタローネほど特徴的ではなく、黒服に短い外套をまとっています。まあ、普通のおっさんですね。
パンタローネほど動かず、理屈をこねたセリフで登場人物を煙に巻きます。学はあるようで、えせ学者や、いかさま師の役柄が多いようです。
マルクス兄弟で言えば・・・、もうやめとこう。

プルチネッラ
鉤鼻で白いだぶっとした服にとがった帽子をかぶり、腹の出たまん丸い感じの男・・・、というのが一般的なイメージです。役柄に応じて性格はさまざまだったようですが、頭が足りず人にだまされるような役柄が多かったようです。
このキャラクターの面白いところは、地域によって他の道化のキャラクターに変化しているところです。イギリスでは「パンチ」となり、フランスではおなじみ「ピエロ」になります。
(※ピエロの発祥はペドロリーノとしている書籍が多いです。確かに語源としては「ペドロリーノ→ピエロ」と変化したようなのですが、ペドロリーノというキャラクターはコメディア・デラルテではあまり目立つ存在ではありませんでした。服装、所作などからピエロのベースとなっているのはむしろプルチネッラという考え方もあり、このページではそれに拠っています)

補足しておくと「ピエロ」とは、道化の中の1キャラクターで、白いゆったりした衣装に身を包んだ、少し頭は足りないかもしれないけれど純真で夢想家・・・という、まぁありがちなイメージになります。一方、イベントやらサーカスやらで客の呼び込みしてるような派手でにぎやかな道化は総称「クラウン」と呼びます。

コロンビーナ
・・・という名前が有名ですが、コロンビーナが脚光を浴びたのはコメディア・デラルテがフランスで喝采を博するようになってからです。一般的には「小間使い」の役柄で、名前は「イザベッラ」、「フランチェスキーナ」などいろいろと呼ばれています。
女性の役柄で、女性が演じます。実は中世ヨーロッパでも、女性が舞台で芝居を演じるという習慣はありませんでした。コメディア・デラルテはその習慣を破ったことでも、関心を集めていたのです。
芝居の中では、アルレッキーノやプルチネッラと(ときにはパンタローネなんかとも)色恋沙汰になったりします。

カピターノ
軍隊の隊長の役柄です。口では偉そうなことを言うが、実際の行動を見るとてんでだらしない、という役柄。

ザンニ
ザンニは下僕の役柄全体を意味します。アルレッキーノなどもザンニの一種ということができます。ほかにもザンニとしてペドロリーノ、スピカーノ、ブリゲッラなどのキャラクターがいます。が、アルレッキーノなどに比べると、際だった特徴はありません。


仮面

コメディア・デラルテのキャラクターはたいてい仮面を付けます。仮面は通常、顔の上半分を覆うタイプのものです。これはセリフを言うのに支障にならないようにと考え出されたものです。仮面は通常、皮で作られていました。

仮面を付けるようになったのは、一つには観客との距離があります。顔の表情で演技してもその表情が観客まで届かないのです。劇場で演じる場合は、当時の劇場は今に比べると照明設備が現在ほど整っていないため、なお表情は届きません。
さらに、動きの激しいコメディア・デラルテでは、正面を切って演技をするということが少ないため、ますます顔への依存度が少なくなります。

そのため、デラルテでは仮面を付けることが一般的になりました。仮面は着脱が容易で、照明設備のない劇場や、野外の大劇場でも見分けがつきやすくなります。
また、仮面の副次的作用として、表情にまったく頼れなくなることによって、身体の動きの重要度が増しました。ここから発生した身体による表現力の豊かさが、コメディア・デラルテの大きな特徴の一つです。

役者の意識としても、仮面を身につけることでキャラクターになりきれる同一化の効果があったことでしょう。なお、仮面はそれぞれのキャラクターごとに異なっていて、上半分だけを覆うものとはとはいえ、キャラクターの見分けははっきりと付くようになっています。パンタローネなら鉤鼻といった具合。

このようにデラルテの大きな特徴である仮面ですが、18世紀のフランスでは、仮面をはずすように要求されることが多くなりました。フランス人が表情を見たがったから、という当時の資料がありますが、根本的な原因はコメディア・デラルテ自体の勢いが失われていったところにあるとも言われています。

ところで、現代でもこの仮面を販売しているところがWWW上にありました。Gariateというところで、仮面を専門に扱っているところのようです。URLは、http://www.duck.it/gariarte/maschere/arte.html


セリフと身体、そして即興

コメディア・デラルテの脚本には、セリフが記載されていません。
「アルレッキーノ、パンタローネのところに行って、仕事がないかどうか尋ねる」と、こんな具合にト書きのようなものが記されているだけです。

セリフが重視されていないわけではありません。どんな内容の話をするかは、きちんと指示されています。ただ、具体的なセリフまわしは、役者に任せられていました。ここが役者の腕のみせどころで、どうやって気の利いた言葉や洒落をひねり出すかが人気役者になれるかどうかの分かれ目です。

この即興性、これがコメディア・デラルテのもう一つの大きな特徴です。

もう一つ、セリフに関して注意すべき点は、デラルテの役者たちはイタリア語でセリフをしゃべっていたことです。イタリア国内ではよいのですが、イタリア国外では役者はどうしても動きに重点を置くようになりました。結果としてこれがパントマイムの技術を向上させ、現代のパントマイムの源流となっています。


コメディア・デラルテの終焉

冒頭に記したように、コメディア・デラルテはイタリア以外の国々の文化にも大きく影響を与えています。特に大きな当たりをとったのは、フランスでした。言語が比較的似通っていることもあるのでしょう。フランスでは、「イタリア座」という常設のイタリア芝居の劇場まで設立されました。

しかし、フランスで定期公演をうつようになってから、しだいにコメディア・デラルテは衰退していきます。正確には、本来イタリアで演じられていたデラルテから、フランス的なコメディア・デラルテへと変質していくのです。仮面は撤廃され、フランス語のセリフなどが取り入れられます。芝居の質もフランス人向けで繊細な筋立てになり、やがて役者は脚本に書かれていることを忠実に演技するよう要求され、即興性が失われていきました。

イギリスでもコメディア・デラルテは変質します。イギリスで残ったのは、コメディア・デラルテのキャラクターと動きだけでした。イギリスでは現代でもクリスマス・シーズンに、おとぎ話などが題材の "pantomime" が演じられます。しかしこれは、いわゆる現代パントマイムとも、コメディア・デラルテとも違う独自のスタイルの(有り体に言えば子供じみた)お芝居になってしまいました。
ちなみに、イギリス英語で "pantomime" というと、このおとぎ話を演じるお芝居が第一の意味になるようです。


さて、現在は

現在コメディア・デラルテは、硬直化した演劇に活を入れるとかいった意味合いで、即興などのダイナミズムがそれなりに注目されているようです。芝居やマイムのレッスンにデラルテの精神を取り入れることが、多く行われています。

また、現在でもイタリアの「ピッコロ・テアトロ」のようなデラルテの意志を受け継ぐ劇団がいくつかあります。

--

・・・と、ここまではコメディア・デラルテを実際に見る前に書いた話。

念願かなって1998年12月、とうとうコメディア・デラルテを見ることができました

・・・筆者は実際に見るまで、日本の伝統芸能風に「保存」されて生きながらえているのかと予想していたのですが、どうしてどうして。すばらしく勢いのある芝居でした。現在の演劇界にないダイナミズムとでもいえばよいのでしょうか。豊富な運動量、臆面のないギャグ、饒舌なセリフ(まあ、意味は分からないのですが、雰囲気は伝わる)は、下手な小劇団の芝居よりも断然楽しめます。
さすが、ヨーロッパ各地(下町の場末から宮廷まで)を、何百年かにわたって笑わせ倒してきただけあります。お上品におさまっちゃあいません。歯ごたえ十分。

この本場物のコメディア・デラルテは、残念なことに、ごくたまにしか来日公演が行われません。 『ぴあ』なんかでもホントに目立たなかったり、料金がどえらく高かったりしますが、機会があればぜひ。

−−

参考文献
『コメディア・デラルテ』 コンスタン・ミック著、梁木 靖弘訳、未来社刊
『ハーレクィンの世界 - 復権するコンメディア・デッラルテ』 アラダイス・ニコル著 、浜名 恵美訳、岩波書店刊、ISBN:4-00-001864-7
『大道芸人』 森 直美 編著、ビレッジセンター刊、ISBN:4-89436-049-7

WWWページ
http://www.ozi.com/commedia/
http://www.214b.com/
http://www.duck.it/gariarte/maschere/main.html




< about page index
main >>
technique >
resource >
etc >