タイトル・ロゴ - Title Logo


テクニック - Technique - テクニックと身体の使い方 (風船、マネキン - - 同化) < back -


パントマイムの動きの質は、日常生活のそれとはなんだか違います。
パントマイムの動きを特徴づけている身体の使い方には、大きく2つあります。1つは、「基礎的な肉体訓練」で説明した「分解」です。そしてもう1つが、ここで説明する「同化」という身体の使い方です。

同化とは、パントマイムでは「身体の一部、あるいは身体全体を、何かと同じようにする」ことを意味します。

「壁」では、手のひらを壁と同じ性質に変化させています。つまり、地面に垂直で平らで固くて動かなくて・・・など、手のひらを壁と同化させているわけです。
このように身体の一部(特に手)を同化させるのは、マイムでは非常によく行われます。これはマイムをやってる人であろうとなかろうと、ほとんど無意識にやってしまうことなんで、特にテクニックと言うほどのものではありません。

むしろ大切なのは、身体全体や身体の動きを同化させることです。・・・いったいどういうことなんでしょうか? 風船のテクニックを紹介しながら説明しましょう。


風 船

まず、風船を手にするところから始めましょう。

では、風船を手にとってください。・・・もう言うまでもないでしょうが、ここでもイメージが大事です。どんな風船ですか? 色、手ざわり、におい、などなど。
風船をふくらませるときのことも思い出してください。ゴム風船をいきなりふくらませると、モノによっちゃあ頭の血管が切れそうな思いをしますね。ふくらます前によくゴムを伸ばしておくと、わりと楽にふくらみます。

風船を伸ばす。 - stretching the balloonクリックするとアニメーションGIF(231k)が表示されますが、でかいデータのわりにたいしたことしてません。練習のときはこれよりもっと大胆に伸ばしてみましょう。 というわけで、まず風船を伸ばしてみましょう。風船を両手でつかんで引っぱります。
ゴムの弾力性や柔らかさをよく思い出して引っぱってください。


実際の風船はそうたいして伸びるものではありません。しかし、パントマイムでは実際にやるよりも、大きくデフォルメして表現することが必要です(パントマイムに限らず、舞台表現は多かれ少なかれそういうところがありますが)。小手先だけで風船を伸ばしていても、見ている人にはよく伝わりません。
それに、せっかくパントマイムによってモノの制約から解放されたんですから、ここは現実ではできないくらい大胆に伸ばさなきゃ損てなもんです。

今伸ばしている風船を、もっともっと大胆に伸ばしてみましょう。足とか身体のほかのところを使ってもかまいません。身体全体を使って、後先考えずに風船を伸ばせるだけ伸ばしてください。

−−

・・・さて、身体は今どんな風に動いていますか?
知らず知らず、ゴムが伸び縮みするように身体を動かしていませんか?

これが「同化」の基本です。
身体がゴムのような動きをすることによって、手につかんで引っぱっているものがゴムであると、見ている人にいっそう強く伝わります。今表現しているモノがどんな特徴かを、身体でフォローする。そのことによって、表現したいモノがどんなものであるかをよりはっきりと伝える。 -- これが同化の特徴です。

−−

では、風船はもう十分に伸びたことでしょうから、ふくらませてみましょう。


風船をふくらませる - 手と身体の同化
風船をふくらませる(1) - blowing the balloon(1)
まず、風船を両手でくるむようにして持ちます。
風船をふくらませる(2) - blowing the balloon(2)

風船をふくらませる(3) - blowing the balloon(3)

風船をふくらませる(4) - blowing the balloon(4)
風船の口から、息を吹き込みます。
息を吹き込むごとに、手のひらが風船の表面に合わせてふくらんでいきます。
手のひらが風船の表面と同化しているわけですね。

さて、せっかくマイムですから、そこらの風船じゃできないくらい大きくふくらませてみましょう。直径2mとか、あるいはもっと大きく。
これくらい大きくなると手だけで表現しきれなくなります。そこで、身体を風船と同化させてみましょう。
風船がふくらむのに合わせて、身体を丸くします。風船のはち切れそうな感じが出せればOK。コミカルな味を出すときは、この身体の動きをぐんとデフォルメするといいでしょうね。

身体全体を風船のように - use your body like the balloon


風船で遊ぶ − 動きの同化

せっかく大きくふくらませた風船ですが、空気を抜いて、普段われわれが目にするくらいの大きさにしてください。手頃な大きさになったら、口を結んで止めてください。・・・実際の風船ではここで案外苦労するんですがここはマイムのいいところで、ひょいっと簡単に口を結んでしまいましょう(もちろん、リアルに苦労して結んでもらってもかまいません)。

では、その風船をついて遊んでみましょう。
風船と戯れているときのことを思い出しながら、まずは遊んでください。

−−

さて、遊んでいるのは楽しいのですが、漫然と遊んでいても、見ている人には何をしているのかあまりよく伝わらないことがあります。
「風船で遊んでいる」と分かってもらうためには、次の点に注意して動きます。

まず注意すべき点は目線です。
実際の風船で遊んでいるときも無意識にそうしているものですが、風船の動きをしっかり目で追います。これによって、風船が今どこにあるか、そして風船が空中を漂うスピードが分かります。目だけでなく、首から上全体で風船の軌跡を追うようにすると、大きな動きになってわかりやすくなります。

そして、もう一つ注意すべき点は、身体全体の動きを風船の動きと同化させることです。
これまでは、風船の特徴(ゴムの弾力性や丸さなど)を同化で表現してきました。今度は風船の動き方を同化で表現します。 つまり、風船のふわふわ漂う感じ、手でついたときに軽くはねる様子、やわらかな感じなどを身体の動きに反映させます。
身体全体を風船のように - move like the balloon flows
右のアニメーションは、風船の動きを身体の動きに取り入れた様子です。全体にやわらかな「風船っぽい」動きになっているのがお分かりいただけるでしょうか。


堅い動きになると・・・ - move in straight way... seems like hitting a ping-pong ball rather than balloon その対照的な例として、風船の動きと同化せず、直線的に身体を動かしているのが右のアニメーションです。
これはこれで、風船で遊んでいるように見えなくもないのですが、どちらかというと一人で羽根つきでもしているようには見えないでしょうか?
上のアニメーションと比較すると、上の方が「風船らしさ」でまさっていることがお分かりいただけると思います。

このように、同化は動きでも利用します。同化はパントマイムでモノの「らしさ」を表現するための重要な手段なのです。

−−

マネキン(ロボット)

もう一つの同化の例として、マネキンを挙げておきましょう。

ショーウィンドウのマネキンの特徴を思い出してください。
動かない、目に生気がない、モデル的というかちょっと不自然なポーズで立っている、固い、などなどありますね。このような特徴と同化する −要するに人間らしさを消す− と、マネキンになります。

ロボット立ち姿 - mannequin (basic standing pose) 具体的には、右のようなポーズで立つことが多いです。
そして、目の焦点をずらします。より目にしてから、左右の目を少しずらす感じでしょうか。この辺は人それぞれです。
もちろんこれだけではなく、ほかにもいろいろなポーズをとります。この辺は本物のマネキンを見たり、鏡の前で立ってみて研究してください。型があるわけではないので、マネキンらしいポーズであればどんなポーズでもいいのです。

マネキンが動くと、ロボットということになってきます。
最近の工業用ロボットはピアノを弾いたり、その気になればかなり人間に近い動きもできるようです。しかし、我々がロボットと聞いて一般的にイメージするのは、金属製で不器用かつ直線的な動きしかできないやつです。典型的なところでは、スター・ウォーズのC3POやロボコップですね。
そこでロボットを演じるには、不器用かつ直線的な動きを心がけます。ロボットの動きと同化するわけですね。
また、なるべく人間らしい動きをなくすことです。
動きは1つずつ - move your body separately
身体の各パーツを一つずつ動かすのが、その方法の一つです。たとえば、人間が横を向くときは、胸から上を一緒にねじることが多いですが、これをまず胸から動いて次に首と動かせばかなり人間らしさが消えます。これは、身体をねじる分解の応用でもありますね

パーツを1つずつ動かし、流さずに一瞬止める - take a pause while moving 動きを流した例 - if no pause..
ほかのコツとしては、動きを流さずに一瞬止めるなどがあります。上のアニメーションでは、どちらも腕を上げる仕草をしています。左側は身体のパーツ(前腕と上腕)を1つずつ動かし、1つ1つの動作の区切りに少し間が入っています。右側の例では、2つ以上のパーツを一緒に流しています。
ほかにも、止めるときに軽く揺らすとか、地面に対して垂直または水平の軌跡を描くように動かすとか、まあコツを言いだしたら、結構いろいろあります。

・・・しかし、これも型ではありません。この辺は鏡の前で研究してそれぞれ身につけることが多いです。結局、ロボットらしい動きに見えればどんな風に動いてもいいのです。むしろ、型にはまった動きになってオリジナリティーのかけらもない、なんてことにならないように気をつけてください。何がつまらんと言って、これほどつまらんことはないですから。個性的な動きを作り出せたらそれが一番なのです。

−−

その他の同化を利用するテクニック

これまでに説明したことからも分かるように、同化はさまざまなテクニックでそれと気付かず利用されています。
同化を効果的に使っているテクニックとして、「つな引き」があります。
つな引きでは、胸を柔らかく動かすことによって、引っぱっている物体が「つな」であると感じさせます。つまり、胸をつなと同化させているわけですね。胸の動きが堅いと、「棒」が見えてきます。
胸を柔らかく動かすのには、やはり分解を応用しています。胸だけを動かす例を参考にしてください



< technique page index
main >>
about >
resource >
etc >